タンドスピロンクエン酸塩とは
タンドスピロンクエン酸塩(Tandospirone)とは
タンドスピロンクエン酸塩は、神経症や心身症による症状の治療に効果を発揮します。また、軽度の抑うつ状態を改善する目的で使用されることもあります。日本ではアザピロン系の抗不安薬「セディール」の有効成分として用いられています。
上記の症状に有効性があることから、タンドスピロンクエン酸塩を有効成分とする抗不安薬を処方している医療機関は少なくありません。しかし、使用することによって副作用を引き起こす可能性があるので、その取り扱いには十分に注意する必要があります。
また、決められた用法用量を守って正しく使用するのはもちろんのこと、併用禁忌薬や併用注意薬にも注意が必要です。ここでは、そんなタンドスピロンクエン酸塩についてまとめています。
タンドスピロンクエン酸塩の効果
現代社会においてストレスは日常的に感じやすいものですが、強く感じすぎてしまったり過度に溜め込んだりすると、神経症や心身症を招くリスクが高まります。
神経症とは、日常的なストレスによって生じる心の病気の総称であり、代表的なものとしてパニック障害や不安神経症、社会不安障害などが挙げられます。
一方、心身症は、ストレスの影響によって身体に生じる病気の総称をいいます。具体的な病気として、気管支ぜんそくや胃・十二指腸潰瘍、神経性過食症などが挙げられます。
タンドスピロンクエン酸塩は、これらの病気が現れた場合に用います。脳内で分泌される神経伝達物質、特にセロトニンに作用し、ストレスやその他の原因による神経の興奮を抑制。それによって心の高ぶりを抑え、パニック障害や不安神経症、社会不安障害などの症状を緩和させます。また、ストレスが心身症に発展しないよう抑えることができます。
また、以上の効果に加えて強い不安感を取り除くことができるため、うつ症状や不安感から眠れなくなってしまう不眠症(睡眠障害)の治療を目的として使われることもあります。
軽度のうつ病に使える
タンドスピロンクエン酸塩は直接的に抗うつ剤として使用することはありませんが、その効果から軽度のうつ病を治療する目的で用いることがあります。精神状態を落ち着かせるための重要な役割を担う神経伝達物質セロトニンの働きを増強する効果があり、これによって気分の落ち込みや強い不安感、やる気の減退といった心の不調を改善します。
ただし、このような軽度のうつ症状を治療する目的で用いる場合は、いくつか注意しなければいけないことがあります。たとえば、ベンゾジアゼピン系抗不安薬から急にタンドスピロンクエン酸塩に切り替えると、不眠や強い不安感、手足のしびれといった離脱症状が現れやすくなります。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬からの切り替えを希望する場合は、医師の指示通りに正しく減薬したうえでタンドスピロンクエン酸塩の使用を開始しましょう。また、ある程度進行しているうつ症状については効果を得にくいので、慎重に取り扱うようにしましょう。
タンドスピロンクエン酸塩の副作用
すべての医薬品は特定の病気・症状を治療する目的で開発されており、含有する有効成分の働きによって私たちは心身の不調を改善します。このような医薬品本来の目的に沿った作用を主作用といいますが、その一方で予期せぬ作用、いわゆる副作用が生じることがあります。
タンドスピロンクエン酸塩の主な副作用として、眠気や頭痛、めまいといった精神神経系の症状が挙げられます。これらの症状は発現したとしても軽度であることがほとんどですが、場合によっては重症化したり長期にわたって継続したりすることもあります。
また、発症率は極めて低いものの、重篤な副作用を引き起こすリスクがあることもわかっています。
肝機能障害やセロトニン症候群、悪性症候群などが挙げられますが、いずれも放置すると深刻な病気・症状を引き起こす可能性があります。
副作用は医薬品を使用したからといって必ず発現するとは限りません。しかし必ず副作用が現れないと断言することもできないので、医薬品を使用する際はどのような副作用があるのかを把握しておき、万が一の場合はすぐさま対処することが重要です。
タンドスピロンクエン酸塩を含む医薬品
神経症や心身症など、神経の異常によって生じる病気・症状に効果的なタンドスピロンクエン酸塩。大日本住友製薬が製造・販売する「セディール」は、これを有効成分とする医薬品のひとつです。
“セロトニン作動性抗不安薬”に分類される医薬品であり、上記の病気に加え、軽度のうつ症状や不眠症状を治療する目的で処方されることもあります。ここではそんなセディールについての基本情報や特徴を紹介しています。
セディール
セディールは、大日本住友製薬が開発したセロトニン作動性抗不安薬です。1日3回、タンドスピロンクエン酸塩を10mgずつ服用することで効果を発揮し、神経症や心身症による身体症状を治療します。
直径6mm、厚さ3mmほどの白色をした円い剤形をしており、タンドスピロンクエン酸塩の含有量を示す数字(10mg錠なら「10」、20mg錠なら「20」)が刻まれています。効果がマイルドであり、また即効性に優れている点も特徴として挙げられます。
タンドスピロンクエン酸塩のジェネリック
医薬品は「新薬」と「ジェネリック医薬品」の2種類に分けることができ、先に紹介したセディールは新薬に当たります。一方、セディールを元にして開発されたジェネリック医薬品もあります。
こちらは新薬と同じ有効性、安全性があるにもかかわらず、安価で購入できるというメリットがあります。神経症や心身症で病院を受診するとなると診察代に薬代も合わさることになり、治療費が高くなってしまう場合がありますが、共和薬品が開発した「アメル」などのジェネリックを選ぶことで、治療費を抑えることが可能です。
タンドスピロンクエン酸塩の作用機序
安定した精神状態を維持し、また感情を豊かに表現するために、脳内では神経伝達物質が働いています。興奮や意欲に関与するノルアドレナリン、喜びや快楽をコントロールするドーパミンは特に重要な役割を担いますが、これらと同じように欠かせないのがセロトニンです。
セロトニンは人間の感情に大きな影響を及ぼす神経伝達物質であり、またノルアドレナリンとドーパミンのバランスを適切な状態に整える存在でもあります。しかし、このセロトニンが過剰に分泌されると、神経伝達物質のバランスが崩れて人は強い不安を感じるようになります。
このようにして起こる神経系の興奮を抑制するために、タンドスピロンクエン酸塩が効果を発揮します。タンドスピロンクエン酸塩は、セロトニンがその作用を発揮するために欠かせないセロトニン受容体の働きを阻害します。これによってセロトニンの分泌量を抑制し、神経系の興奮を鎮めます。
その結果、神経性の痛みや不安といった症状を解消します。
抗不安薬や神経症の治療薬は数多くありますが、タンドスピロンクエン酸塩は、特にマイルドに効果が発現するという特徴があります。このことから副作用が少なく、心身にかかる負担を抑えつつ治療を進めることができます。
タンドスピロンクエン酸塩の併用禁忌薬
複数の病気を同時に患ってしまった場合は、それぞれに効果的な治療薬を併用することがあります。
しかしその際、医薬品の飲み合わせに注意しなければいけません。飲み合わせが悪い医薬品を併用すると医薬品本来の効果が得られなくなるほか、逆に強く作用しすぎることで副作用のリスクを高めることがあります。
中でも命に危険が及びかねない重篤な副作用を引き起こす可能性がある場合は、「併用禁忌薬」として併用が禁止されます。しかし、幸いなことに2018年現在、タンドスピロンクエン酸塩の併用禁忌薬は報告されておりません。
何かしらの医薬品を常用しているためにタンドスピロンクエン酸塩を使用できない、といったケースが起こることはないでしょう。
ただし、服用後に何かしらの異常が現れた場合は、医薬品の使用を中止したうえですみやかに医師に相談するようにしてください。
タンドスピロンクエン酸塩の併用注意薬
タンドスピロンクエン酸塩に併用禁忌薬はありませんが、その一方で併用注意薬がいくつかあるということには注意が必要です。併用注意薬とは、「併用を禁止するまでには至らないものの、細心の注意を払いつつ慎重に使用しなければいけない医薬品」をいいます。
併用することで、どちらか片方、もしくは両方の効果に支障をきたす可能性があります。また、飲み合わせ次第では副作用が強く現れるおそれもあるので注意が必要です。どうしても併用しなければいけない場合は、医師に適切な指示を仰いだうえで慎重に服用しましょう。
タンドスピロンクエン酸塩の併用注意薬として、たとえばブチロフェノン系抗精神病薬が挙げられます。具体的には「セレネース」「スピロピタン」が該当し、併用することでこれらの医薬品の作用を過剰に強めてしまう恐れがあります。
また、高血圧や狭心症の治療に用いるカルシウム拮抗剤も、併用する際は注意が必要です。カルシウム拮抗剤の血管拡張作用が強まり、急激に血圧を下げる恐れがあります。
そのほか、「ルボックス」「パキシル」などのSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)も併用注意薬に指定されています。併用してしまうと脳内のセロトニン濃度が過剰になり、セロトニン症候群という重い副作用を招くリスクが高まります。