塩酸セルトラリンとは
塩酸セルトラリン水和物(Sertraline)とは
塩酸セルトラリン水和物は、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」というカテゴリーに属する抗うつ剤の有効成分です。
脳内で分泌されるセロトニンは、人の心を落ち着かせる働きがある神経伝達物質ですが、役割を終えると再び取り込まれます。SSRIは、文字通りこの「再取り込み」を阻害することで、心が不安定になっている抑うつ状態を改善させることができる抗うつ剤です。
塩酸セルトラリン水和物を有効成分とする抗うつ剤も、そのひとつ。「ジェイゾロフト」をはじめとする医薬品が医療現場で使用されています。数あるSSRIの中でも塩酸セルトラリン水和物を含む医薬品は最も強力な部類に入るということで、世界中で使用されているのがポイントです。
ここでは、そんな塩酸セルトラリン水和物の具体的な効果について、また薬であるからには注意しなければならない副作用や併用禁忌薬・併用注意薬のこと。また、ジェイゾロフトやそのジェネリック医薬品についての情報をまとめています。
塩酸セルトラリン水和物の効果
人間の脳の中にはセロトニンと呼ばれる神経伝達物質が存在していますが、その物質が脳に対して再取込されてしまうのを抑制する効果が塩酸セルトラリン水和物にはあります。
再取り込みが阻害された状態になると、人間の脳内にはセロトニンが多く存在する状態となります。それにより、セロトニンの減少が原因で発症する各種の症状の軽減や緩和、そして治療が可能となります。また、月経前不快気分障害(PMDD)と呼ばれる女性特有の症状に対しても効果があります。
特に海外では心療科・精神科クリニックでだけでなく、婦人科クリニックでも塩酸セルトラリン水和物を含んだ医薬品が処方される場合があるようです。
塩酸セルトラリン水和物の具体的な適応症状としては、うつ病、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が挙げられます。
また、アメリカではこれらの症状に加え、強迫性障害や社交不安障害、さらに上にも挙げたような月経前不快気分障害(PMDD)の改善も可能であると言われています。
塩酸セルトラリン水和物は非常に効果が強く、使用時には優れた効果を発揮することがわかっていますが、誤った服用を行ってしまった場合、重篤な副作用をもたらす可能性があるため、その点には注意する必要があります。そのこともあって日本では「劇薬」に指定されているので、服用の際は用法用量を厳守することが欠かせません。
その他の抗うつ剤の種類
塩酸セルトラリン水和物はSSRIという種類の抗うつ剤に分類されています。その特徴は、脳内で分泌されるセロトニンが脳に再取込され、再利用されるのを防ぐことです。
日本国内で処方されるSSRIには、塩酸セルトラリン水和物以外にもフルボキサミン、パロキセチン、エスシタロプラムといった有効成分があります。
このほかにも、抗うつ剤には三環系、四環系、SNRIをはじめ、さまざまな種類のものがあります。
三環系抗うつ剤は、シナプス前部のセロトニンに加えてノルアドレナリンの再取り込みを阻害する働きがあります。抗うつ作用に加えて鎮痛作用もあるのが特徴です。
四環系抗うつ剤は、三環系と同じ効果で副作用が少ないという特徴を持つ抗うつ剤です。
SNRIは、セロトニンだけでなくノルアドレナリンの再取り込みを阻害する働きがあり、三環系、四環系抗うつ剤に比べて副作用が出にくいという特徴があります。
そのほか、DNRIというカテゴリーに属する抗うつ剤には、ドーパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害します。沈み込んだ気分を上向きにさせる働きがあるところが特徴です。
5-HTA刺激薬と呼ばれるタイプのものは、セロトニンを受け入れる受容体のひとつである5-HT1A受容体という部位に作用する抗うつ剤です。
ノルアドレナリンと特異的セロトニンを作動させる働きを持つNaSSAと呼ばれるタイプの抗うつ剤もあります。
塩酸セルトラリン水和物の副作用
塩酸セルトラリン水和物を含有する抗うつ剤は副作用のリスクが少ないことが特徴ですが、吐き気や食欲不振、口渇、下痢、便秘といった副作用が現れる場合があります。これらは軽微な副作用のため、吐き気止めや胃薬といった医薬品での対処が可能です。
さらにその中には、神経過敏による不安感といったものも挙げられます。比較的発生頻度の高い副作用ですが、重篤化するケースもあるので要注意です。攻撃性の表面化といった症状を招く恐れがあるため、不安を感じた際には医師への相談を検討してみると良いでしょう。
まれに発生する重度の副作用としては、セロトニン症候群、肝機能障害、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(体内で作られる尿の量を調節できなくなる)、重度の皮膚粘膜症状(全身に水疱や斑点、びらんなどを生じる)、アナフィラキシー様症状(ショック症状)といったものがあります。
これらの症状は発症後、対処を行わずにいた場合には心身に大きなダメージと影響を与えます。
塩酸セルトラリン水和物を服用して心身に何かしらの異常が現れ始め、普段とは明らかに違っている状態となっているのを自覚した際には、すみやかに医師による診察を受けるようにしましょう。
また、重篤な副作用には初期症状が存在しており、初期症状が発生した段階で処置を受けるようにすれば、重症化を引き起こさずに済む場合があります。
たとえば、不安感や焦燥感が異常に高まる(セロトニン症候群)、極度のだるさやめまい(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)などがあった場合には要注意です。
塩酸セルトラリン水和物を含む医薬品
塩酸セルトラリン水和物を有効成分とする抗うつ剤は、「ジェイゾロフト」です。主に心療科・精神科のクリニックで処方されています。開発はアメリカに本社を置く大手製薬会社のファイザーで、海外では「ゾロフト」という製品名で販売されています。
ジェイゾロフト
ジェイゾロフトは、世界的にその名を知られるさまざまな医薬品を開発しているアメリカの製薬会社ファイザーが世に送り出した、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。「ジェイゾロフト(JZOLOFT)」の“J”は「Japan」の頭文字。アメリカをはじめ海外では「ゾロフト(ZOLOFT)」という名称で販売されています。
アメリカでは1991年に承認を受けた医薬品であり、海外では販売や製造に関する特許が切れています。そのため、2016年よりゾロフトの有効成分である塩酸セルトラリン水和物を使ったゾロフト・ジェネリックの開発と販売が可能となりました。
塩酸セルトラリン水和物のジェネリック
塩酸セルトラリン水和物を有効成分とするファイザー製の抗うつ剤「ジェイゾロフト(ゾロフト)」には、いくつかのジェネリックが存在します。ファイザーとは別の製薬会社が、塩酸セルトラリン水和物を使って開発した抗うつ剤です。
ジェイゾロフトを開発したファイザーは多額の開発費、人件費をかけていますが、ジェネリックを開発する製薬会社はすでにあるジェイゾロフトをもとにし、低コストで世に送り出しています。その分だけ、ジェイゾロフトよりも安い価格で抑えられているというのが特徴です。
ここでは、代表的なジェネリックである「セルティマ」について解説しています。
セルティマ
セルティマはインド・アフマダーバードの製薬会社、インタスファーマが製造と販売を行っているジェイゾロフトのジェネリックです。白く丸い形をした錠剤の医薬品で、特徴としては有効成分である塩酸セルトラリン水和物が1錠あたり25mg、50mg、100mgという3種類のものがあることが挙げられます。
一般的なジェイゾロフトゾロフト・ジェネリックの多くは、有効成分の配合量が50mgと100mgの製品となっているため、少量の服用時にはピルカッターを使用する必要があります。しかし、セルティマは調節をせずに使用できます。
「25mg錠」が100錠で約4,500円、「50mg錠」が100錠で約5,400円、「100mg錠」が100錠で約7,200円という価格設定になっています。
塩酸セルトラリン水和物の作用機序
うつ病の主症状である「抑うつ状態」とは、心身の生体リズムを整え、気分を落ち着かせる「モノアミン」というカテゴリーに属する神経伝達物質が減少している状態のことであるとされています。
塩酸セルトラリン水和物は、セロトニンと呼ばれるモノアミン神経伝達物質の再取り込みを阻害し、その量を安定させる働きを持っています。「セロトニントランスポーター」という再取り込みを行う器官の働きを阻害するのです。
平時はセロトニントランスポーターによって再取り込みされるセロトニンが脳内に満ちた状態となり、ドーパミンやノルアドレナリンといったほかのモノアミン神経伝達物質の分泌バランスが向上することから、うつ症状などが改善されていきます。
塩酸セルトラリン水和物の併用禁忌薬
塩酸セルトラリン水和物との併用が禁忌となっている「併用禁忌薬」は、以下通りです。
- MAO阻害剤
- ピモジド
パーキンソン病の治療薬として使用されている医薬品で、セロトニンの分解を阻害する働きがあります。
塩酸セルトラリン水和物と併用することで脳内のセロトニン濃度が異常に高まり、発汗や痙攣、異常高熱、昏睡といった症状が見られる「セロトニン症候群」を引き起こす危険性があるとされています。
基本的には併用することは禁じられており、どうしてもMAO阻害剤を使用しなければならない場合は、塩酸セルトラリン水和物の服用を中止して14日以上の間隔を空ける必要があります。
統合失調症の治療薬になります。塩酸セルトラリン水和物と併用することで、効果が高まりすぎてしまうため、併用は禁止されています。
その他、過去に塩酸セルトラリン水和物に対して過敏症(アレルギー)が見られた方は使用できないことになっています。
塩酸セルトラリン水和物の併用注意薬
塩酸セルトラリン水和物との併用に際しては十分に注意する必要がある、医師に相談する必要があるとされている「併用注意薬」は数が多いため、ここでは代表的なものをいくつか紹介します。
- メチルチオニニウム塩化物水和物
- 三環系抗うつ剤
- アスピリン
- ワルファリン
皮膚が紫色になるチアノーゼを発症する「中毒性メトヘモグロビン血症」の治療薬に含まれる成分で、併用によってセロトニン症候群を引き起こす可能性があります。同じ理由で併用禁忌薬とされているものに、抗生物質のリネゾリドも挙げられます。
その他にも、
などが併用注意薬とされています。
特に三環系抗うつ剤は有効成分の血中濃度を高めて効果が増幅してしまうために、副作用のリスクを上昇させてしまう危険があるため、併用はしないでください。
また、医薬品とは違いますが、グレープフルーツを一緒に口にするのは避けるべきとされています。果実、果汁に含まれるフラノクマリンという成分が、塩酸セルトラリン水和物の代謝(分解)を阻害して血中濃度を高め、副作用のリスクを高める可能性があります。